それは、

「ペンを返して欲しい。」

ということである。

 

飛行機に乗ると、やたらと何かを記入する必要に迫られる。特に国際線だと、目的地へ入国する際に必要な「入国書類」への記入が必要だ。

もちろん、それらは公的な物であるために、鉛筆やシャープペン、ましてやロケットペン(まだあるのかしら)等で記入するなんてことは許されず、黒色、もしくは青色のボールペンや万年筆などで記入することが義務づけられている。

・・・日々乗務していてつくづく思うことがある・・・。

ペンを持っていない人の実に多いこと!!


ペンを持っていない人たちは、旅行に行く際に、「必要なモノリスト」は作成しないのだろうかと、疑問に思ってしまうほどだ。

あの「必要なモノリスト」を作成し、それに沿ってワクワクしながら旅行の準備をするのが、何より楽しいではないか。

この準備しながらワクワクと想像した内容の方が、下手すると実際の旅行の内容よりも、往々にして楽しかったことが多いと言えるほどに楽しい行為なのに、皆それをしないのだろうか。

                     pen(1)

だって、旅行に限らず、「何かをする」ための準備をする際、本当に必要になるかどうかはわからないが、念のため「筆記用具」は、必ずと言っていいほど持って行かないだろうか。

これは小学生の頃から変わらない日本人ならではの風習のはず。

したがって、飛行機に乗る際に「ペンを持ってきていない人」は「必要なモノリストを作成していない人」と言えるかもしれない。

イコールでは無いかもしれないが、もし統計を取る機会があるとすれば、この二種類の人々の間に、かなりの高い相関性が見られるのではないかと、私はひそかに踏んでいる。

まぁ、私もこんな偉そうなことを言っているが、忘れ物の常習犯である上に、この仕事に就いていなかったら、飛行機に乗る上での「ペン」の重要性をそこまで認識しなかったであろうから、「ペンを持ってきていない人」の仲間入りをしていた可能性は大であるが。

かといって、「必要なモノリスト」を作成しないかと言ったらそうではないので、さっそく、自分で推論した上記の相関性から逸脱する人間ここにあり、といった感じではあるが。

というわけで、私を含め、人間なのだから誰でも忘れることはある。それは仕様がないことである。

なので、「ちょいとあの乗務員にペンを借りようじゃないか。」と発想するのも、ごく自然の流れで、これもそうするより他はないので、仕様がない。

貸すのはいいのです。

ただ・・・、

「借りたモノは返してください!!!!」


私は声を大にしてこのことを言いたい。

もちろん、ご丁寧に返してくれる人もたくさんいるのだが、返してくれない人も意外に多いのが現実だ。

「何をペンごときでギャーギャーわめいてやがる。ケチくさいったらありゃしない。」

と思ったそこのあなた。

良かったら、私たちの涙ぐましい日々の努力を聞いてほしい。

確かに、機内には会社のロゴの入ったボールペンが用意されている。

用意されているが、数にも限りがあるし、実際自分の担当エリアから遠く離れたところにあったりするので、お客さんに「ペンを貸して」と言われて、とっさに渡せるのは、たいてい自前のペンなのだ。

それを例えば1フライト中3人の人に言われたとしよう。

それで皆きちんと返してくれれば何一つ問題はないのだが、もし、3人が3人とも返してくれなかったとすると、私は一便で3本の自前のペンを失うことになるのだ。

その自前のペンは、ステイ先のホテルのものだったり、家にあるどこぞの保険会社でもらったペンであったりと様々なのだが、私たちは日々私たちの元を去っていく「ペン」を補うために、機内とは違う場所でせっせと「ペン集め」にいそしんでいる、というわけである。

なので、私は機内のサービスが一段落したところで、名付けて「ペン奪回の旅」へと向かう。

ー自分がペンを貸したお客さんたちのところまで行き、ペンを返してもらうー

というのがこの旅の目的である。

                  pen2

①まずは、お客さんのそばを涼しげな顔をしてゆっくり通りすぎる。

②涼しげな顔をしながらも、「私のペン!!いずこに!!」という熱い闘志を胸に、視線はペンの在りかを必死に探しだす。

③もし、お客さんが既に書類を書き終わり、私のペンが自由の身になっていることを確認できた暁には、「お済みでしょうか?」と満面の笑みで問いかけ、ペンを取り戻す。

この3ステップを何人かのお客さんに繰り返すのである。

この旅路は時に、長く険しいものになる。

ただ、この「ペン奪回の旅」が可能なのは、時間的に余裕のあるフライトのみで、離陸から着陸まで時間がなく、バタバタとサービスに追われるフライトでは、大事なペンを取り戻すためとはいえ、仕事を放り投げて旅立つことは難しい。

なので、こういった場合にはペンを貸す段階で、「お済みになりましたら、他の乗務員にでも結構ですので、お返し頂けますか」
とバカ丁寧にお願いをする。

心の中では笑顔とは裏腹に「絶対に返せよ~」と念にも近い思いを抱きながら。

                  pen(3)

私だって本当はこんなこと言いたくないのだ。

しかしながら、「貸してください」と行ってきた割には、返してくれない人がいるので、致し方ないのである。

『借りる』の意味を調べてみた。

借りる- あとで返す約束で、人の物を一時的に自分のもののように

使う。「友人から金を―・りる」「図書館で本を―・りる」⇔貸す。

(大辞泉)


ほら!「あとで返す約束で-」って書いてある!!「貸してください」と言ったからには、一時的に自分のもののように使った後は、約束のもとに返さなければならないのだ。

自分の言葉に責任を持って頂きたいものである。

それなら大胆にも「ペンください」と言われた方のが、多少とまどうがまだ潔くて気持ちがよい。

「くれ」と言うことは、「もらったんだから、何を言われても返すもんか~」という発言者の強い気概が感じられる。

少なくとも、こういう人にペンを渡して、それが返ってこなくても、彼らを責めることはできない。だってあげたのだから。

こうは言っても、「ください」と毎回言われるのはかなり困るけどね。

もしあなたが今後、飛行機に乗り、CAの人にペンを借りることがあったら、なるべく返してあげてほしい。他の乗務員にでも構わないので。借りてもらうのはわたしからしたら一向に構わない。

というか、まず「筆記用具」を持ってくる努力をしてみよう。

それには、「必要なモノリスト」を作ることが有効である。
しかしながら、必要なモノリストを作っても、妄想にふけってばかりの私のような忘れっぽい人だとせっかくリストに書いたとしても、つい鞄に入れ忘れてしまうこともあるので、そこは普段からペンを持ち歩くという心がけが必要なのかもしれないが。

と、今回は珍しくまともに締めくくろうとするわたしであった。

え?ちっともまともじゃない??ダンナ-勘弁してくだせぇよー!