ただ、海であれ。

海になりたい。
船が帰ってきたくなるような。

遠い海で、ふと思い出して心が温かくなるようなそんな波止場になりたい。
海は何もしない。

海はただ在るだけ。
海は何もできない。

海はただ在るだけ。
錨を上げて、帆を張る、これから旅立つ船の準備を、海は少しの切なさで見守って。
出発進行。

汽笛の音。
海は見守る。

 

船が、水平線の向こう。遠く遠く見えなくなるまで見守って。
船はどこを航行してるかな。

船は荒波に揉まれてないかな。

船は遭難していないかな。

船はもっと居心地のよい波止場を見つけてしまったかな。
海は何もできない。

海はただ在るだけ。
悲しいかな、海のできることは、海で在るだけ。
海は船の後を追えない。

戦いの時も、後ろから援護射撃できない。

傷ついた時、すぐに傷の手当てすらしてあげられない。
お月さまのいたずらで、時に、波が引くように思いが遠のくこともあれば、抱えきれない溢れんばかりの愛を、波打ち際に放つこともある。
まれに、周りに大きな傷跡を残すほどに、感情の波で多くの船や大地を飲み込むことも…。
それでも、翌日には、キラキラ光る水面をたたえて。
たとえ、目に見えない海底は、黒く淀んでいたとしても、まるで、なにごともなかったかのように、様々な船が行き交うのを、船は穏やかに見守る。
カモメの親子とお話ししたり。

浜辺の仲良し老夫婦を見つめたり。

お腹をくすぐるイワシの群れとじゃれ合ったり。
そして、ふと、あの船を思い出す。 .

あの船は、今、どこを航行しているかな。
インド洋かな。

オホーツク海かな。

ペルシャ湾かな。
そして、船は海を思い出すことはあるのだろうか。
船が戻ってきたくなる海は、どんな海なんだろう。
海は考える。
考えても考えても、答えは出ないから、海はとうとう諦めた。
海は何もできない。

海はただ在るだけ。 

 

でも、海が一つだけできること。
それは、

船を思うこと。
船の航海の無事を願うこと。

船を信じて、穏やかな波で自分を満たすこと。
時に、船を忘れてカモメやいわしと無邪気に遊ぶこと。
なるべく、お月さまの挑発には、乗らないこと。 お月さまと仲良くなること。
ただ、ただ、穏やかに在ること。 

 

なぜなら、傷ついた船が、安心して帰って来られるように。
なぜなら、暗い海でも、灯台の照らすやさしい灯りを、船が簡単に見つけられるように。
海は、ただ、海らしく在れ。 

 

船の存在が、海が海であることを、思い出させてくれるから。本当は大きな愛を抱けることを、教えてくれるから。
海は今日もただの海。
あの船を思いながら。
#ポエム

#詩 

#海
photo by 山内 教世

[ ただ、海であれ。 ]ポエム2017/07/24 16:25